僕は短歌と川柳を詠み、本と本屋さんが大好きで、小さな会社を経営するコピーライターである関西人だ。ついでに言えば福山雅治さん似であることを自称しているが、まだそれを誰かに認めてもらったことはない。
時間があれば本屋さんに行く。本屋さんを訪れることを目的に、大阪や京都、奈良へ行き、岡山や三重、香川まで足を伸ばしたこともある。僕にとって本屋さんはテーマパークであり、〈そのお店でしか得られない〉空気感を棚から感じることは何よりの至福だ。
さて。
そんな自分が今回、秋峰善さんの書いた『夏葉社日記』を読んだので、その記憶と感動をここに留めておくことにする。人間の感じられる一冊。とてもいい本だった。
※秋峰善さんは秋月圓というひとり出版社を立ち上げた方。夏葉社の代表である島田潤一郎さんを心から敬愛されていて、夏葉社で働いた一年の日々を振り返ったのがこの夏葉社日記である。
※売れる本ではなく、ひとりの読者が何度も読み返したくなる本を作り続けるというコンセプトを掲げているのが夏葉社という出版社。僕は昔日の客を読んでファンになった。
経営者として、上司として ―夏葉社日記を読んで
飾らずに言えば、こんな風に部下や後輩(秋峰善さんと島田さんの関係でいえば弟子)から尊敬される自分になりたいと思った。
ではどうすれば尊敬される上司になれるのか。
島田潤一郎さんの著書『あしたから出版社を読んで』を読んで感動した秋峰善さんは、会いたい、会って話がしたい、仕事を手伝ってみたいと島田さんに手紙を書く。一緒に働きながら、秋峰善さんは島田潤一郎さんの本に対する愛情を深く知るようになる。
たとえば。
自分の読みたい書籍を経費で購入できるという仕組み。
昼休み後に読書の時間がある制度。
一緒に電車移動するときは、離れた席に座って本を読む距離。
島田潤一郎さん自身、弟子(部下)ができたから、あえてそのようなスタイルにしたというわけでもないのだろう。好き、本が好き。ただそれだけの愛が、行動になって制度になって表れる。ぶれない。その姿勢に人は惹かれる。
僕は何が好きなのか。好きだから継続しているのだという姿勢を見せられているのかどうか。
愛とは、尊敬とは、敬愛とは、ぶれないことから生まれるのだということを強く思った。言葉だけではなく、醸し出されるようになってこそ共鳴は生まれるのだ。ツヅケヨ、ジブン。
文章を書く人間として ―夏葉社日記を読んで
僕がずっと昔に詠んだ短歌や川柳を、今も何度も読み直していると言ってくださる方々がいる。身に余る光栄だ。
誰の手にもスマホが当たり前の時代になって、読み物が一握の砂になってしまった。今朝読んだものが、夕方にはもう何かによって完全に上書きされていることも珍しくない。
そんな時代だからこそ、読み続けられるものを作りたいと思う島田さん。それに共感する秋峰善さんの「一冊ずつ」を大切にする行動に、出版社の仕事の価値を思った。全国の小さな本屋さんを直接巡るのは、本を売りに行くのではなく、自分の携わった一冊だから間違いないという信用を売りに行くことなのである。
需要があるから作るのではなく、想いをこめて作ったものだから需要になる。
文章を書く人たちは、こんな人たちに自分の軌跡をプロデュースしてもらえたらどれだけ幸せなことだろう。願っただけでは想いは届かない。かたちにして、それに介在して伝えてくれる人たちがいて、より広くより長く、世に浸透していくのだ。
本を愛する人間として ―夏葉社日記を読んで
夏葉社日記は美しい一冊だ。
表紙デザイン、フォント、行間、紙質に至るまで、作者の蒼く、そして青いその当時のままの感性を伝えようという意志が感じられる。内容はもちろんのこと、この造形の美しさには、何度も読み返したくなる魔力がある。
ブックデザインを担当されたのは若杉智也さん。ご本人のSNSでの投稿を参考に、本棚に残したくなる細部へのこわだりと配慮を感じとってほしい。創造は想像から始まり、その創造がまた、誰かの想像につながっていく。
創るとは輪廻なのかもしれない。
仕事に、伝えることに、自分の人生に情熱を持ちたい方にオススメの一冊
僕は、仕事というのは元来泥臭いものだと思っている。
合理的にスマートに物事が決まっていくと効率が良い。確かにそう思う。ただそれは再現性のない投機のようなものだ。
どれだけ手段が便利になっていっても、感じる人の心そのものには変化はない。高校球児が汗をかき、日焼けをし、ユニフォームを土に汚すからこそ感動するのと同じく、一冊一冊、一文一文、一語一語を大切にして、それに共感してくれる人に感謝を直接伝えていくからこそ、「のこる」仕事ができるのではないかと思う。
仕事、伝えること、自分の人生。
ふっと、途切れてしまいそうになることがある。昔、何をそんなに燃えようと思ったのだろうと、過去の自分を笑ってしまいそうになることがある。そこからは惰性。惰性のまましばらくを過ごして、自分の人生は何なのだろうと嫌気がさしてしまうことがある。
そんな人にこそ、この夏葉社日記を読んでもらって、
・ひとの姿勢に素直に惹かれる
・自分の向き合うものを心から愛する
・直接自分の言葉で伝える、伝え続ける
そんな情熱の種火を、今一度燃え上がらせてほしいと思った。
万年筆のインクをイメージした青の表紙。
落ち着いた美しい表紙だが、一度読み出せば、泥臭い赤い炎を感じてもらうことができるはずだ。
※島田さんの著書であるあしたから出版社とあわせて読んでいただきたい。