嵐山・大覚寺行きの京都市営バスは28系統。9時の授業に間に合うように、当時僕たちは8時37分京都駅始発のバスに乗って大学へと向かった。大学前に到着するのはいつも時間ぎりぎりで、遅刻扱いにされないかヒヤヒヤしたものだ。
ところが、Yさんが運転士の時だけは事情がちがった。大きなバスを運転しているとは思わせないハンドルさばきとアクセルワークで、授業に余裕を持って到着してくれるのである。Yさんには「時刻を守る」という概念はなかったのだろう。運転席の横に「早発厳禁」と大きく書かれていたが、それを意識している気配は微塵もなかった。
明石から京都まで、片道2時間をかけて通学した自分である。《そこまで早起きして頑張ったのに遅刻扱いされるのはたまらん》わけで、乱暴ではあったが、Yさんの運転に助けられてなんとか、出席回数も足りて無事に卒業できたのだった。
「京都での大学生活、いろいろな神社仏閣巡りもできていいわね」
母がそう言ってくれたことを覚えているが、父と母と一緒に入学式の帰りに清水寺に行ったきり。4年間の記憶はボリュームのある定食屋とYさんの印象くらいで、なんとも両親には申し訳ないことをしたと今になって思うのである。
ゆっくり、丁寧に京都を訪れてみたい。
そんな憧れを抱き、ふと、大学時代のことを思い出した。