僕の人生には事件が起きないという本を読んだ。ハライチという漫才コンビの岩井さんが書かれたエッセイ。コメディアンにありがちな「非日常的なハプニング」など、そこにはまったく登場しない。ところが、誰もが経験して感じるような日常だからこそ、妙に共感できてしまうのである。何もない日常がどれだけ幸せであるか、考えさせられてしまった。
新潮社 (2019-09-26)
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僕は小さな会社を営んでいて、広報や広告の仕事をしている。
立場上、お客さんには「伝える」ことの価値を説くのだけれど、「読んでくださる方のために役に立つ情報を書かなければ」「お得なことを伝えなければ読んでもらえないのでは」という懸念をされてしまうことが多い。ある面ではそれは正しくも、【事業を営んでいる人間のお役立ち情報=売りたい内容】なのである。下心が続けば敬遠されるようになってしまうのは、言うまでもないことだろう。
日常を伝える、日常のなかで感じたことを描写する。
それは自分という人間の視点を、景色を伝えることだ。なかには共感してくれる人も現れて「この前のあれ、読んだよ」という風に声をかけてくださる人も出てくるようになる。自分自身が商品になった瞬間だ。そこから先の物語には、価格競争も比較も生まれることはない。「自分」はよそのお店では売っていないのだから当然だ。
商品やサービスを伝えることだけが中小零細企業の広報ではない。自分自身が商品になるということ。気負わずに自分の日常を伝えてみること。それだけでも、選ばれる価値になり得るということを僕の人生には事件が起きないは教えてくれる。
気軽に読める一冊。これでいいんだと力を抜くことのできる一冊。
なんでもないことを価値にしてみたくなる一冊。ぜひ。