「川柳や短歌の作品を拝見しました。とても素敵で、この作品を新聞や雑誌に掲載しないかというご案内のお電話なんです」 ― こういう電話がよくかかってくる。
相手の自尊心をくすぐって対価を得ようとする商売は昔からあった。起業して間もない経営者のところには、インタビュー商法の案内もある。「その理念や商売の内容が素晴らしいと思いまして。テレビでも活躍されている有名人のAさんが取材にうかがいます。いえいえ、お金はかかりませんから、ぜひお話を」
そして取材当日、有名人がやってきて、ちやほやされて嬉しい経営者は「今日のお話、とても素敵でした。どうせならページ量を増やして掲載したいので、その分の代金をご負担いただけないでしょうか」「たくさんの方にも読んでいただきたいので、ウェブページの方にも掲載してよろしいでしょうか。その場合は年間、これだけの費用をお願いしているのですが」というセールストークに騙されてしまうというやつだ。
ちなみに、これらの掲載誌をセールスする人は、必ず「銀行にも置かれている」という話をして、相手の自尊心をさらにくすぐろうとする。実際には、雑誌はどこかの本社や支社に一冊、送りつけられるだけ。もちろん、銀行の担当者は開封してロビーに置くことなどするわけもない。
この雑誌を重宝するのは、経営者などを相手に商品やサービスを売りたい業者たち。いわば「褒めたら買ってくれる」ことが分かっているわけだから、こんなに売り込みやすい相手はいないのである。
こういった自尊心をくすぐって対価を得ようとする取材商法、名誉商法、資格商法の中には、反社会的勢力と繋がっているところもあるので注意が必要だ。自分が騙されている内はまだ良い。騙された結果として、反社会的な組織にお金が渡ってしまうのでは、その自尊心は悪を助長していることになってしまう。
最近では「博士号」を与えてくれる名誉商法もあるらしい。
もちろん、そんな「博士号」には何の意味もないのだが、自分の権威を示すためのハッタリとして利用している人や組織はいくつか存在する。「おお、博士号だって。なんだかすごいね」「ほかにも、いくつも賞をとっているらしい。この人は間違いない人だ」。僕たちはやっぱり権威に弱い生き物で、なんだかすごそうなものを、なんだかすごいと思って評価してしまう傾向がある。
それを上手に利用する人は、権威をさらに高めるべく、複数のピラミッド型組織を構築しようとする。自分が頂点にあり、下にはいくつかのピラミッドがある。ピラミッド同士(グループ)で競わせて、自分の持つ商材やサービスを売らせてくる。ピラミッド内の階段をのぼっていくためには、途中にあるいくつかの「肩書き」取得のために、高額なテストを受ける必要がある。そのテストに合格したものが組織の上へとあがっていき、下部組織からの上納金を自分の懐に収めることができるという仕組みである。
上へいくというステータス。そこでもやはり、自尊心をくすぐる仕組みは利用されている。定期的にパーティー形式の報告会を行い、結果を出した人間が王様から褒め称えられるという仕組みである。「王様から認めてもらえた!俺、もっと頑張るぞ!感動だ!」
まぁ、事実上のマルチ商法である。
自尊心をくすぐられることで、自分の地位を得た人間は、自分の下に組織をつけるためにも、やっぱり同じように相手の自尊心を利用しようとする。だからこの手の話は、ホテルや百貨店の喫茶室などで行われることが多い。場所の選定から、「相手を飲もう」としているわけだ。
「そうですか、そんな夢があるんですね。素敵です。でも今までは誰に言ってもバカにされてきたわけでしょう? わかります。つらいですよね、そんなの。僕はちがいますよ。僕はあなたの味方です。一緒にやりましょう。僕のライフワークにさせてください、あなたの夢の実現を。絶対にやりましょう」
こう言って、一緒に泣いてあげる。
はい。
新規自尊心さん、ご来店ありがとうございますっ。
という流れ。シンプル。
そんなもに騙される人がいるわけがないじゃないかHAHAHAHAHAHA、という人もいるのだが、世の中には100も0もないのである。1があれば、あとは分母を増やせばいいだけだ。遊牧民族よろしく、ありとあらゆる場にネズミたちは走っていき、その地で刈り取れるものだけ生産活動に情熱を燃やす。「これは使命なのです、何が何でもやり遂げなければいけない」「だって、人生、一度きりでしょう?」
閑話休題。
僕は川柳や短歌をやっている関係で、色々なところに自分の名前と連絡先が伝わってしまっている。だから僕の自尊心をねらう人たちがいる。それは正直、あまり気分の良いモノではない。
経営者。そういう肩書きも僕にはある。
経営者のリスト取得はもっと簡単だ。知らない番号からかかってくる電話は、ほとんどが「投資用マンションの購入について」である。そんなお金ないよHAHAHAHAHAHA。
あともうひとつ。
Twitterなどで、どんな人をフォローしているかっていうのはわかりやすい。たとえば僕が、「稼げる」「副業」という文字の入った人たちばかりをフォローしていたら、僕のことをどんな人物だと想像するだろうか?
気をつけてもどうしようもないこともあるが、ちょっとしたことで、自分が「自尊心ターゲット」にされることを回避することもできる。「なんだかあいつ、最近怪しいな。ちょっと痛い方に向かってしまってるな」なんて、そんな風に指をさされる人生はカラフルだとは僕は思わない。守れるものは、自分で守ろう。