ところでジョガーパンツの話題なのである。
なんだそうか、この人たちはジョギングにファッションを追求しているのだと思って聞き耳を立てていると、どうやらそういうことではないらしい。ジョガーパンツとは裾がゴムで絞られているズボンのことを言うそうだ。知らなかった。
ファッションの世界のことが分からない。「イージーパンツ」あたりまではなんとなく理解できるが、「デニム」は何で、それで「デニム風」になるとどう違うのか。「スウェットパンツ」って何だ?セレブ系リラックススタイル?サーファー系?キッチリ目コーディネート?「ブラックジョガーパンツを用いたワントーンコーデ」なんてのはもう、「ブラックジョークの好きなワトソンくん」としか読めない。「セットアップ風」も何なのだろう。Windowsのロゴでも浮かび上がってきそうな気がしてしまう。
そもそも、ズボンのことをパンツと呼ぶのはいつから一般的になったのか。僕が生まれたときにはそうだったのか。女性が「新しいパンツを買ってきまして」なんて話をしていると、どきっとしてしまう。「イントネーションが違うんですよ」と教えてもらっても、「ほら言ってごらんなさい」と試されているような気がして声に出せない。世界は僕に優しくない。
テレビをしばらく見ない間に、ときには、僕が仕事をさぼって昼寝をしている間に、新しいカタカナたちが世界に出現し続けているのだ。世界は僕に安息を与えてくれない。勇気ばかりを試されて、僕はジャージでジョギングへと向かう。ジャージ、ジャージ。この優しくて確かな響き。大好きだよ、ジャージ。