絵を描くのが苦手だったから、絵画展も興味がなかった。そんな自分が美術や彫刻、花など、これまで興味を持つことのできなかった世界に足を運べるようになったのは、自分にはよく分からない概念を説明しようとしてくれる表現のチカラの面白さに気付いたからだ。
たとえばキャッチコピー、たとえば解説文。添えられている文章によって、その作品の魅力が見えてくる。そうなのかと思う。そうだったのかと知る。これが楽しい。「見た」だけの記憶に終わるはずのものが、「知った」という知識になるわけだ。価値への動線を作って、商品やサービスに興味を持ってもらえるようにすることがコピーライターの仕事だが、アートの世界にあるものを鋭く分かりやすい言葉で表現するスキルを僕はまだ持たない。もちろん、ただ言葉を知っているだけで表現できるようになるとも思わないけれど。知らない世界への扉を作る能力にはあこがれる。
ミッフィーちゃんが伝える「葛飾北斎」と「フェルメール」の魅力
こどもと絵で話そう ミッフィーとほくさいさん、こどもと絵で話そう ミッフィーとフェルメールさんという本は実に興味深い。先入観を持たない子どもの目線になってアートの世界への扉を開いてくれる。僕たちはフィルターによってモノの価値を歪めて判断してしまうことがある。シンプルに、まっすぐに価値を受け入れるコツは、子どもたちから学ぶのが一番良いのかもしれない。
扉は色々でいいと思う。アートがアートの位置にいて、「あがってこいよ」ではなく、アートの世界に魅了された人たちが、それぞれの言葉や武器でアートの魅力を伝えようとすれば、ドアはいくつもできて、たくさんの人たちが入ってくることができる。そういうドアを作る人たちの能力もまた「仕事」なのであって、世界のすべては誰かの仕事で出来ているのだということを痛感する。
世の中は感動に満ちていて、その感動の源を作ってくれた人にも、源への扉を作ってくれた人にも感謝を忘れないようにしたい。そして、せっかく持っている商品やサービスの価値を伝えきることができていない人たちのためにも、僕は「想像すること」「相手の気持ちや理解を考えること」「言葉を選ぶこと」の重要性について、もっともっと語っていきたいと思う。僕はそうやって、世界にかかわっていく。価値を、まだ見ぬ誰かへ。言葉のしごと。