だまし絵に騙されあっていましたね でたらめにうつくしかった日々
笹井宏之
てんとろり
放課後や夏休みは永遠に続くように思われた。幾つもの夢を語り合って、世界は僕たちの手のひらをコロコロとした。悔し涙もたくさんあっただろうに、むかしむかしはいつもキラキラとして薄く開いた瞼の遠くに映る。約束はもう、笑い話になりましたね。
8月の折り返しを過ぎて砂浜の人影が減る。「なつがはじまった」よりも海が輝いて見えるのがいつも不思議。届きそうな気がして声を出してみる、届くはずがなくて声は波に消える。知っているよりも知らないことの多かったほうが幸せだったいつか。勢い、海は詩になっていく。
入れ替わった空気、月にバトンが渡るまで。何百回と横顔を眺めたような気もする、でもあるいは、ほんの数回のことだったのかもしれない。この時期のことは何度も詩に描いてきたけれど、波や汽笛やテトラポッドの感触を覚えているだけで、永遠の約束は言葉にもならない。薄い誓いを繰り返してばかりだったのか、それとも、淡い自分の傷付きやすさを知っているからなのか。
甘い夢や淡い約束はテトラポッドの上に置いてきたつもりで、時々、たらればの未来に飛んでいく束の間の遊戯。
日の暮れる早さを知るようになるのもこの頃。こうして、夏は残響になっていく。