さみしくて見にきたひとの気持ちなど海はしつこく尋ねはしない
杉崎恒夫
パン屋のパンセ
作者の杉崎さんは大正8年生まれ。2009年に亡くなってしまわれたが、この歌は70代か80代の頃に詠まれたものだそうだ。
この歌に描写されている主人公と同じように、海に立って風の声を聴いたことは誰にでもあると思う。瑞々しいまでの情緒を、僕はあと、30年や40年も経ってから表現することができるのだろうか。景色のひとつひとつにフレームをはめ込んで、絵画のなかに自分を置いて心を描く。リアルばかりを追いかけて、「最近の若者は」なんて、まさか、そんな。
言葉だって誰かの心の癒やしになりたがる、そして僕は詩人たちの言葉を世に繋ぐ役割を担いたいと考えた。たくさんの言葉に救われてきたこれまでの人生を返しに、いろいろな手段で広げていこう。ときどき、自身の詩もしのばせながら。