大好きな海が何にも喋らない
赤松ますみ
川柳作家全集赤松ますみ
「ええやん、もう。気にすんなって、そういうこともあるって。大丈夫やって、な。次があるって、な」と、夕暮れを越えて月に逢えるまで、海は優しくしてくれた。
一転、白い波のまま、海が黙して何も語らないとき、僕は自分の何かを正当化したがっていることが多い。悪戯な雲が現れて、夕暮れも月も雨に流されてしまう。「俺、甘かった?」
正義の味方にも、恋の主役にも、海は容易に誘ってくれる。黙する海にある台本は、僕をしばらく、冷静になるよう働きかけていたり。