父から一字貰った名前の僕に、母はピアノを与えてくれた。
脳の何処かなのか、心と呼ばれる何かなのかを、僕は知らない。
けれど、表現という泉のようなものは、間違いなくそんな二人から受け継がれ、
養われたものに違いないのだろうと思う。
さて、父さん、僕はあなたの自慢になれましたか。
ねえ、母さん、僕は今でも五線譜が大好きです。
生まれ変わる、いつか未来の。
僕はふたりの子どもでありたいし、やっぱり、同じように与えられ、同じように諭され、
同じように殴られ、そして、同じようにふたりを誇りに思いたい。
そんな約束、指切りをしておけば良かったね。
そう、母さん、いくらでも好きな花を買えばいいよ。
うん、父さん、近くにいてくれるから夢に見ないんだよね。
桜から夏を跳び越えて、もう、こんな季節・・・ はやいね、父さん。
※あの日から半年の想いを刻みたくて
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【掲載】康孝の孝 父の名と母の詩と
ふあうすと2008年10月号
明鏡府