2時間で終わるはずの手術。
4時間半の闘い。
父の心臓は、血管は、想像以上に弱っていて、手術は不完全な
結果に終わってしまった。
予後は不良であることを医者に告げられた。
16年以上の人工透析患者。
その弱った身体で、心臓のバイパス手術を受けてみるか。
受けなければ、向こう一年以内に、人工透析中に心臓が止まって
しまう可能性が高い。
バイパスの手術を受けたとしても、足の切断は不可避。
生きるため、大手術を受け、足を切るか。
それとも、何もしないという選択肢を選ぶべきであるのか。
…何を選んだとて、苦痛を伴う未来だよ。 悲しいよ。
一年365日、ずっと店を開け続けていた親父。
いつのことだったか、なぜか、早く帰ってきて、たった一日だけ
キャッチボール。
親父の投げるボールは、驚きの変化球だった。
親父は、「こうやって投げるんだぞ」と、握り方を教えてくれた。
親父は得意気だった。
その背中は、今だって、うんと遥か遠くで、永遠の目標なんだ。
おやじ、おやじ。
どうしたら、何も失わないで居られるんだ。
俺は、元通りの親父でいてくれて、これまで通りの優しさで見守って
くれなけりゃ、やっていけんよ。
奇跡がほしい、今までどおりでなきゃ、だめだ。