子には母がいて、子は自らの意思で戦争を決め、また、自らの意思に
左右されないで戦地へと赴く。母はこんなはずではなかった、こんな
ことなら生むのではなかったと胸を痛めるが、母の手を離れた子供は
その温度を忘れて、慈しむべきであるどこか誰かの母の子の血と涙を
求めて狂気の世界へと走る。砕け散った桜たちの最後の叫びが、誰に
向けられたものであったことか。繰り返される時代に、いつも、声を
聞いたその人たちの震えと涙は決して止まることを知らない。
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【掲載】乳房は揺れる赤紙の気配して
ふあうすと2007年02月号
全人抄(赤井花城選)