遠い日の転がって来るラムネ玉
長浜美籠
三省堂現代女流川柳鑑賞事典
回顧する夏の日を象徴するのはラムネ瓶。舌に触れるビー玉を押し戻して汗になった分を補給した、あの駄菓子屋はもう、小奇麗な民家になってしまったけれど。
梅雨入りの声を聞いた空は、それっぽい顔をする必要に迫られて重たい色を広げたがる。傘の予報を睨みながら行動の予定を決めて、すきますきまの笑顔、のち、ぐてん。夏がいとも簡単に奪っていく気力や体力、ナントカリョク。
ラムネ瓶の向こうに懐かしい昔たちがぐにゃりと映る。殺し屋の顔をした太陽に少年は負けることを知らない。炭酸の魔法は僕を走らせて、シャツをどれだけの汗に染めたのだろう。