「うばー、ぼんどだ。ぎんもぐぜい、いいがおでぃでずねぇー(うわー、ほんとだ。金木犀、いい香りですねぇー)」
秋花粉に苦しむ鼻で、金木犀の香りにリアクションすることには無理がある。
営業の立場で仕事をしていると、相手に合わせなければならないという強迫観念から、つい「大人の仮面」を被ってしまうことがある。仮面同士の付き合い、それは本質とはかけ離れていて、往々にして、その付き合いは疎遠になってしまうものだ。鼻声の自分を認めてもらって、可愛がっていただく。そちらの方が、どれだけ楽で、本音の付き合いを続けていくことが出来るか、気付いてからは肩の力が抜けていったのを覚えている。
受け入れられようと背伸びをするのではなく、等身大のありのままを受け入れてくれる場所を見つけていく。「仕事のために」というよりも、「にんげんとにんげん」という関わりをしていくために、まず、かかとをきちんと地につけていくことは大切。万人に好かれようとすることは、それは自らの浅さを認めるようなものだ。
金曜日。
鼻水のままを受け入れてくれる場所へ向かいながら。