手術は大成功だった、奇跡だった。
余命という未来は、ひとまず打ち消された。
足を切らなければいけないという危機は、ひとまず過ぎ去った。
手術は大成功だった、みんなの願った奇跡だった。
—
左にハンドルを切れば、父の病院があった。
手術の成功を信じて、父と医者と、家族に祈りを託す。
いま、自分がやらねばならない仕事に専念しなければ、いつまで
経っても父親の背中は遠いまんまだ。
無事、手術の終わりますように…。
僕は道をまっすぐに走らせた。
(手術中に、万が一なんてことは)
(心臓がうまくいっても、足は切らなければいけないのだろうか。
切るくらいなら死にたいという親父に、どんな希望があるのだろう。)
纏わり付くのは生暖かい風。
嫌な連想をさせる雨はガラスに容赦ない。
信じてる、はずの、自分の心は。
ほんとうは、とっても臆病な顔をして毛布を欲しがっていた。
胸ポケットの震えたその瞬間。
真っ白になりながら携帯を取り出す自分がいた。
感激で泣きじゃくる自分のことを、まるで想像なんてしちゃいなかった ―
—
麻酔の残る術後、意識朦朧としたなかで。
父は、「うまくいった」と呟いたという。
そして感謝の気持ちを「ありがとう」という言葉で伝えたという。
まだ、状況のよくわからない段階であるのに。
ありがとうを伝えられる父のことが、心から誇らしかった。
父は強かった、やっぱり僕には、大きな人だった。
何をしてあげられるか、なんて、おこがましかったね。
僕は、まだまだ、父には貰うものばかり。
両手いっぱい、こぼれ落ちそうな、感動でした、感激でした。
親父へ、父さんへ。
なんて言葉がいいのか、よくわからんけど。
ありがとうな、
おめでとーな。
で。
これからも、ずっと助けていてくれな。
きっと、顔を見ちゃいえない台詞、だけど。
いつも、そういう気持ちで、これからも、ずっと、うん。